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「距離」の見取り図
作品解説
「海」や「ラジオ」といったいくつものモチーフから浮かび上がる2人を隔てる「線」を辿りながら<喪失と再生>を描いた作品
いちろー/MUSIC LIVE PERFORMANCE『SEE SHE SEA』がどのような作品だったのかを振り返る見取り図です。
March, 2021

『SEE SHE SEA』は、令和2(2019)年6月8日と9日の2日間に愛知県名古屋市のユースクエア プレイルームにて上演された、作曲家・瀬乃一郎(当時は「いちろー」名義)による初舞台作品である。「いちろー/MUSIC LIVE PERFORMANCE」と銘打ち、音楽・テキスト・演出を瀬乃が手掛け、音楽ライブを「上演」した。出演は、名古屋小劇場で活動するあさぎりまとい(当時は「まとい」名義)と歌い手として活動するRiCOを演者とし、演奏メンバーには瀬乃を筆頭に、音楽界から舟橋孝裕、KANAMORIN、梶藤奨が名を連ねている。名古屋小劇場の劇伴を多く手掛けるとはいえ、音楽活動を軸とする瀬乃の「舞台」への進出は話題を呼んだ。
企画は、元号の変わった令和元(2018)年11月10日の名駅近くのファミリーレストランでの打ち合わせからはじまった。当初「ライブイベント “Fill me.”」とされた企画は、瀬乃がこれまでに創作してきた楽曲が収録された2枚のベストアルバム「あとかた」と「アパトメントノオト」を中心に、既存楽曲を再構築して発表するものであった。そもそも音楽ライブの「上演」とはいったい何か。瀬乃は「演劇的な要素を散りばめ、典型的なライブ演奏の枠から解放された舞台作品」と説明する。イメージを喚起する一助として企画書に掲載された「Preface|まえがき」の全文を紹介しよう。
Preface|まえがき
暗闇のなか、考えていた。
この場には、以前に。
どんな灯りがともっていたのだろう。
どんな音楽がひびいていたのだろう。
どんな時間が。どんな空間が。どんな舞台が。
誰かの目の前に、立ち上がっていたのだろう。
暗闇のなか、考えていた。
それは穴の中だったのかもしれない。
終わらない夜だったのかもしれない。
一瞬の出来事だったのかもしれない。
ひとつの幻想だったのかもしれない。
暗闇のなか、考えていた。
なんどもなんども僕はこの場に、いたはずなのに。
そのどれもが、そのほかのどれとも、まったくことなるものだった。
そんな時間が流れる、ひとつひとつに向けて。
そんな空間で過ごす、ひとりひとりに向けて。
僕は音楽をつくり続けてきた。
暗闇のなか、考えていた。
窓もないあの暗闇に閉ざされた劇場から、
僕は僕の音楽を連れ出して、どこまでいけるだろう。
たどりつく先で、僕ひとりでなく、横にいる大切なひとたちと。
この場に訪れるひとたちと。
どんな時間と空間を立ち上げることができるだろう。
(いちろー|2018)

『SEE SHE SEA』は、別々の場所にいるマイとリコがお互いの「手紙」を読み合うことで進行する。「手紙」の間には歌詞やテーマがリンクする楽曲が適宜挿入され、その楽曲は舞台上のバンドにより生演奏される。主な舞台はかつて聖堂のそびえるも災害に見舞われあとかたもなくなってしまった街である。マイは「置き去り」にするように街を出て、海を渡り歩いている。リコは被災後もその街に留まるも、現実の光景を受け止めきれないでいる。マイとリコはそれぞれ「そとからきたひと/船乗り」と「うちにこもるひと/被災者」とされ(劇中で明示されることはない)、マイは「アナタ」に宛てた手紙を受け取り、リコは「アナタ」に宛てて手紙を書くが、「アナタ」がマイなのか、リコなのか、はたまた別の第3者なのかはわからないようになっている。以上の設定のもと、「海」や「ラジオ」といったいくつものモチーフから浮かび上がる2人を隔てる「線」を辿りながら<喪失と再生>を描いた作品である。
紺野ぶどう
オーチャードシステム 代表