いちろー
2019秋-2020新春シーズン
ゲストクリエイター
演り人インタビュー
いちろー
『どうせなにもみえない』作・演出
線引きはいいことかもしれないけど、いいことだという判断は誰がしたんだろう、このまちの主体はどこにあるんだろう
2019秋-2020新春シーズンの新作は、作曲家のいちろー氏がゲストクリエイターとして作・演出を担います。音楽の分野に留まらない活動から劇作を手掛ける思いを伺いました。(聞き手:紺野)
May 26, 2019
―意気込みを教えてください。
演り人知らズで『シュガー…』(注:『シュガー、ミルク、スプーン、カップ、コーヒー、ダーリン』作 FOペレイラ宏一朗)をやらせていただいて、あとWSもやって。演り人知らズの作品群は、まちとの弱いつながり方というか、そういう部分を意識することが結構あって。自分もまちを意識しはじめたのがその辺かなと思います。そのあとベストアルバムで「あとかた」と「アパトメントノオト」を出していて、そこが僕の中でまちを考えるにあたってのスタートライン、みたいなのがあった。それと並行して自分の作品を創りたいな、創らないといけないなという、やる気とちょっとした使命感と焦燥感が混じったような気持ちがずっとあったので、オーチャードシステムさんと共催という形で6月に音楽ライブ上演を企画しました。
SEE SHE SEA|2019|ユースクエアにて
―2019年6月に名古屋で上演された『SEE SHE SEA』で初めて作・演出を担われました。
そこでもテキストを書いたりして作品を創っているんですけど、今回はもっと演劇のフォーマットを意識したいなと思っています。ただやっぱり音楽は出したいし、出す出さないというよりは、出ざるをえないという状態に持ち込みたいなという。本能的な、鳴らないといけないときにしか鳴らないものな気がずっとしていて、それが抽象的に気持ちの動きなのか、物理的・具象的に「それは音鳴るよね」という状況なのか、があると思う。6月の作品を創りながらずっと考えていたのが、不可分なところがどうしてもあって、その不可分なところはずっと狙い続けたい。6月の作品でもまちの話はちょいちょい出るんですけど、違う側面でまちのことを結構ずっと見渡していて、そこで思ったことを今回は作品にしたい。今イメージしているのは高架下。そこっていろんなものがあると思うんです。例えばグラフィティとか。グラフィティが景観を阻害するから、じゃあグラフィティをどう消すのか、なかったことにするのか、あり続けるのか。全部違うやり口というか。それって別にグラフィティだけじゃないよなとわりと思っていて。ストリートミュージシャンとか、あれ法律上よくない例も結構あるし。ホームレスの人とかもなかったことにするだとか。例えば公園のベンチって真ん中に最近支柱が入るんですよ。あれって基本的に寝ないようにするという側面がある。あと最近のブランコってわりと足を入れるタイプが多くなってきていて、それって転げ落ちないように、不慮の事故が起きないようにかくまっているというか、守りの一手なんですけど。その線引きをどこで誰が決めているのかなとか。
2019秋-2020新春シーズンのゲストクリエイター(中央がいちろー氏)
―「線引き」が大きなテーマとなりそうですね。
線引きはいいことかもしれないけど、いいことだという判断は誰がしたんだろう、このまちの主体はどこにあるんだろうと結構ずっと思っていて。僕はそれいらないんだけどな、みたいなまちの施策というかまちの行動が結構あったりして。まずまちが生き物みたいにみえるっていう側面があるんですけど、それに対してどうしても対立側に立っちゃう瞬間が僕はわりと気持ちのうえでは多くて。それは自分がマイノリティなのか、いやマイノリティも包括する社会があってまちがあるという順番じゃないのって思ったときに、存在理由とそもそも僕がずれる。まちがあって僕がいるという時系列の順番はそっちなんですけど、でも僕のためにまちがあるという順番で本来ないといけないという気持ちがずっとあって。このわだかまりをもう少し演劇フォーマット重視の作品にしたい。でも音楽っていうのは僕のやり口でもあるし、僕が一番研ぎ澄まして精度を高められるし、そこの不可分にしたところをみつめて、音楽としても切り離せないし演劇としても充実させるというのが今回狙いたいところです。
いちろー
廃墟文藝部|白線の内側
作曲家。名古屋の劇団 廃墟文藝部に所属。舞台作品の劇伴音楽を数多く手掛ける。またポエトリーバンド白線の内側では、キーボードを担当。2019年6月には自身初の舞台作品として、音楽ライブ上演『SEE SHE SEA』を発表。音楽と演劇を軸に、表現を追求している。
公演概要
演り人知らズ
2019秋-2020新春シーズン
どうせなにもみえない
作・演出 いちろー(廃墟文藝部|白線の内側)
2019年
10.18fry-20sun
AHAアトリエ・ギャラリー
2020年
2.14fry-16sun
AHAアトリエ・ギャラリー
キャスト/スタッフ
な花|山崎双葉|松浦汐音(南山大学演劇部「HI-SECO」企画)
演出助手・衣裳 新谷梨子
※松浦汐音、新谷梨子は2020新春より参加